麻雀和了放銃方程式の定式化(和了率・放銃率等と順位分布等に関する定量的研究)
とつげき東北


概要

MJSIM0を用いて、ある他家平均の和了率・放銃率・流局時テンパイ率・和了時ツモ率に対して、それと異なる任意のパラメータを持つプレイヤーの順位(安定R)分布を計測し、それらの関係を非常に簡単な一つの式に表すことに成功した。
結論は以下のようになる。

【和了放銃方程式】

基準の安定RをR0とすると、安定Rは次のように概算される。
R = 40ΔA - 25ΔH + 3Δt + 2Δg + R0 (東風戦・総レンチャン)
R = 50ΔA - 31ΔH + 4Δt + 2.2Δg + R0 (東南戦・和了レンチャン)
R:安定R ΔA:基準に対する和了率の増分 ΔH:基準に対する放銃率の増分 Δt:基準に対する流局時テンパイ率の増分 Δg:基準に対する和了時ツモ率の増分 R0:基準R

流局時テンパイ率を10%高めることは、東風戦において安定R+30、東南戦において安定R+40に当たる成績の上昇をもたらす。
放銃率1%悪化させることは、同様に-25、-31に当たる成績の下降をもたらす。
この式を評価することによって、どのような打ち方変更が有利であるかを判定することができる。



(MJSIM0の擬似麻雀上でのパラメータ変化による順位変化・東風戦版)

・以下を基本データとする。

1000000試合 他家R1955
和了率  子 20.31 ツモ 34.87    他家  20.31  34.87
      親 23.73 ツモ 35.95         23.73  35.95
放銃率  子 13.85                 13.85
         14.14                 14.14
テンパイ    47.48                 47.48
         51.7                  51.7
安定R 1955

この基本データの一部のパラメータだけを変化させて、安定Rの変化を見る(各々100万試合)。
第一東風荘のルールに準じて、全局流局レンチャンとした。

・和了率の変化が順位に及ぼす影響

和了率 親子とも2.0%増加した時 安定R2033(+78)
和了率 親子とも1.5%増加した時 安定R2015(+60)
和了率 親子とも1.0%増加した時 安定R1996(+41)
和了率 親子とも0.5%増加した時 安定R1976(+21)
和了率 親子とも0.5%減少した時 安定R1935(-20)
和了率 親子とも1.0%減少した時 安定R1914(-41)
和了率 親子とも1.5%減少した時 安定R1893(-62)
和了率 親子とも2.0%減少した時 安定R1871(-84)

(参考)
和了率 親子とも4.0%増加した時 安定R2111(+156)
和了率 親子とも4.0%減少した時 安定R1781(-174)

(参考2)
和了率 子のみ2.0%増加した時 安定R2014(+59)
和了率 子のみ1.0%増加した時 安定R1984(+29)
和了率 親のみ2.0%増加した時 安定R1975(+20)
和了率 親のみ1.0%増加した時 安定R1965(+10)
和了率 親のみ1.0%減少した時 安定R1945(-10)
和了率 親のみ2.0%減少した時 安定R1933(-22)
和了率 子のみ1.0%減少した時 安定R1921(-34)
和了率 子のみ2.0%減少した時 安定R1888(-67)

現実的につき得る程度の差の中においては、和了率の変化によって、安定Rはほぼ線形に変化すると言える。
平均に対する和了率の増加分をΔA%とすると、安定Rの増加分ΔRは、
ΔR=40ΔA
と計算できる。
親子の別で分ける場合、平均に対する親和了率の増加分をΔA0、子和了率の増加分をΔA1として
ΔR=10ΔA0+30ΔA1
と書ける。


・放銃率の変化が順位に及ぼす影響

放銃率 親子とも2.0%減少した時 安定R2006(+51)
放銃率 親子とも1.5%減少した時 安定R1994(+39)
放銃率 親子とも1.0%減少した時 安定R1980(+25)
放銃率 親子とも0.5%減少した時 安定R1968(+13)
放銃率 親子とも0.5%増加した時 安定R1942(-13)
放銃率 親子とも1.0%増加した時 安定R1929(-26)
放銃率 親子とも1.5%増加した時 安定R1918(-37)
放銃率 親子とも2.0%増加した時 安定R1908(-47)

(参考)
放銃率 親子とも4.0%減少した時 安定R2065(+110)
放銃率 親子とも3.0%減少した時 安定R2037(+82)
放銃率 親子とも3.0%増加した時 安定R1885(-70)
放銃率 親子とも4.0%増加した時 安定R1863(-92)

(参考2)
放銃率 親のみ1.0%増加した時 安定R1949(-6)
放銃率 親のみ2.0%増加した時 安定R1945(-10)
放銃率 子のみ1.0%増加した時 安定R1934(-21)
放銃率 子のみ2.0%増加した時 安定R1918(-37)

放銃率の変化によって、安定Rはほぼ線形に変化すると言える。
平均に対する和了率の増加分をΔH%とすると、安定Rの増加分ΔRは、
ΔR=-25ΔH
と書ける。
親子の別で分ける場合、平均に対する親和了率の増加分をΔH0、子和了率の増加分をΔH1として
ΔR=-5ΔH0-20ΔH1
と書ける。


・流局時テンパイ率が順位に及ぼす影響


流局時テンパイ率 親子とも10%増加した時 安定R1985(+30)
流局時テンパイ率 親子とも5%増加した時 安定R1968(+13)
流局時テンパイ率 親子とも2.5%増加した時 安定R1961(+6)
流局時テンパイ率 親子とも2.5%減少した時 安定R1948(-7)
流局時テンパイ率 親子とも5%減少した時 安定R1939(-16)
流局時テンパイ率 親子とも10%減少した時 安定R1925(-30)

同様に、安定Rの増加分ΔRは、平均に対するテンパイ率の増加分をΔt%とすると、
ΔR=3Δtと書ける。


・ツモ和了率が順位に及ぼす影響

ツモ率 親子とも10%増加した時 安定R1976(+21)
ツモ率 親子とも5%増加した時 安定R1966(+11)
ツモ率 親子とも5%低下した時 安定R1945(-10)
ツモ率 親子とも10%低下した時 安定R1934(-21)

安定Rの増加分ΔRは、平均に対する和了時ツモ率の増加分をΔg%とすると、
ΔR=2Δgと書ける。


(MJSIM0の擬似麻雀上でのパラメータ変化による順位変化・東南戦版)

・以下を基本データとする。

1000000試合 他家R1955
和了率  子 20.31 ツモ 34.87    他家  20.31  34.87
      親 23.73 ツモ 35.95         23.73  35.95
放銃率  子 13.85                 13.85
         14.14                 14.14
テンパイ    47.48                 47.48
         51.7                  51.7
安定R 1955

この基本データの一部のパラメータだけを変化させて、安定Rの変化を見る(各々100万試合)。
第二東風荘のルールに準じて、全局和了レンチャンとした。

・和了率の変化が順位に及ぼす影響

和了率 親子とも2.0%増加した時 安定R2054(+99)
和了率 親子とも1.5%増加した時 安定R2032(+77)
和了率 親子とも1.0%増加した時 安定R2005(+50)
和了率 親子とも0.5%増加した時 安定R1980(+25)
和了率 親子とも0.5%減少した時 安定R1929(-26)
和了率 親子とも1.0%減少した時 安定R1905(-50)
和了率 親子とも1.5%減少した時 安定R1879(-76)
和了率 親子とも2.0%減少した時 安定R1850(-105)

(参考)
和了率 親子とも4.0%増加した時 安定R2155(+200)
和了率 親子とも4.0%減少した時 安定R1745(-210)

(参考2)
和了率 子のみ2.0%増加した時 安定R2027(+72)
和了率 子のみ1.0%増加した時 安定R1991(+36)
和了率 親のみ2.0%増加した時 安定R1985(+30)
和了率 親のみ1.0%増加した時 安定R1969(+14)
和了率 親のみ1.0%減少した時 安定R1939(-16)
和了率 親のみ2.0%減少した時 安定R1923(-32)
和了率 子のみ1.0%減少した時 安定R1920(-35)
和了率 子のみ2.0%減少した時 安定R1882(-73)

現実的につき得る程度の差の中においては、和了率の変化によって、安定Rはほぼ線形に変化すると言える。
平均に対する和了率の増加分をΔA%とすると、安定Rの増加分ΔRは、
ΔR=50ΔA
と計算できる。
親子の別で分ける場合、平均に対する親和了率の増加分をΔA0、子和了率の増加分をΔA1として
ΔR=15ΔA0+35ΔA1
と書ける。


・放銃率の変化が順位に及ぼす影響

放銃率 親子とも2.0%減少した時 安定R2021(+66)
放銃率 親子とも1.5%減少した時 安定R2005(+50)
放銃率 親子とも1.0%減少した時 安定R1987(+32)
放銃率 親子とも0.5%減少した時 安定R1970(+15)
放銃率 親子とも0.5%増加した時 安定R1939(-16)
放銃率 親子とも1.0%増加した時 安定R1925(-30)
放銃率 親子とも1.5%増加した時 安定R1912(-43)
放銃率 親子とも2.0%増加した時 安定R1895(-60)

(参考)
放銃率 親子とも4.0%減少した時 安定R2091(+136)
放銃率 親子とも3.0%減少した時 安定R2059(+104)
放銃率 親子とも3.0%増加した時 安定R1869(-86)
放銃率 親子とも4.0%増加した時 安定R1842(-112)

(参考2)
放銃率 親のみ1.0%増加した時 安定R1949(-6)
放銃率 親のみ2.0%増加した時 安定R1943(-12)
放銃率 子のみ1.0%増加した時 安定R1933(-22)
放銃率 子のみ2.0%増加した時 安定R1909(-46)

今までの他のデータに比べると非線形になるが、現実的な概算として、安定Rはほぼ線形に変化すると考えて良いと思われる。
平均に対する和了率の増加分をΔH%とすると、安定Rの増加分ΔRは、
ΔR=-31ΔH
と書ける。
中心から極端に離れた場合、放銃率が低い場合はこの式よりも安定Rの変化分が大きくなるし、高い場合はこの式よりも安定Rの変化分が小さくなる。
とはいえ、基準から4%離れたかなり極端なデータでも誤差が+-12であり、実用上は問題がないと思われる。
親子の別で分ける場合、平均に対する親和了率の増加分をΔH0、子和了率の増加分をΔH1として
ΔR=-7ΔH0-24ΔH1
と書ける。


・流局時テンパイ率が順位に及ぼす影響

流局時テンパイ率 親子とも10%増加した時 安定R1995(+40)
流局時テンパイ率 親子とも5%増加した時 安定R1975(+20)
流局時テンパイ率 親子とも2.5%増加した時 安定R1963(+8)
流局時テンパイ率 親子とも2.5%減少した時 安定R1944(-11)
流局時テンパイ率 親子とも5%減少した時 安定R1933(-22)
流局時テンパイ率 親子とも10%減少した時 安定R1914(-41)

同様に、安定Rの増加分ΔRは、平均に対するテンパイ率の増加分をΔt%とすると、
ΔR=4Δtと書ける。


・ツモ和了率が順位に及ぼす影響

ツモ率 親子とも10%増加した時 安定R1978(+23)
ツモ率 親子とも5%増加した時 安定R1966(+11)
ツモ率 親子とも5%低下した時 安定R1944(-11)
ツモ率 親子とも10%低下した時 安定R1933(-22)

安定Rの増加分ΔRは、平均に対する和了時ツモ率の増加分をΔg%とすると、
ΔR=2.2Δgと書ける。


和了率・放銃率等各パラメータと順位分布との関係(麻雀の和了放銃方程式)の定式化

基準の安定RをR0とすると、安定Rは次のように概算される。
R = 40ΔA - 25ΔH + 3Δt + 2Δg + R0 (東風戦・総レンチャン)
R = 50ΔA - 31ΔH + 4Δt + 2.2Δg + R0 (東南戦・和了レンチャン)
R:安定R ΔA:基準に対する和了率の増分 ΔH:基準に対する放銃率の増分 Δt:基準に対する流局時テンパイ率の増分 Δg:基準に対する和了時ツモ率の増分 R0:基準R
これを和了放銃方程式と呼ぶ。

(この式に対する追試) 
(東風戦)
和了率2.0%増加、放銃率1.0%増加の場合 理論値 R2010(+55)  実測値 R2008(+53)  Rの誤差 2.0
和了率1.0%減少、放銃率1.5%減少の場合 理論値 R1952.5(-2.5) 実測値 R1953(-2)  Rの誤差 0.5
和了率8.0%増加、放銃率4.0%増加の場合 理論値 R2175(+220) 実測値 R2172(+217)  Rの誤差 3.0
放銃率1.0%増加、流局時テンパイ率20%増加の場合 理論値 R1990(+35) 実測値 R1992(+37) Rの誤差 2.0
(東南戦)
和了率2.0%増加、放銃率1.0%減少の場合 理論値 R2086(+131) 実測値 R2088(+133) Rの誤差 2.0
和了率2.0%増加、放銃率3.0%増加、ツモ率5%増加の場合 理論値 R1973(+18) 実測値 R1980(+25) Rの誤差 7.0


親子の別による詳細版

R = 10ΔA0 + 30ΔA1 - 5ΔH0 - 20ΔH1 + 3Δt + 2Δg + R0 (東風戦・総レンチャン)
R = 15ΔA0 + 35ΔA1 - 7ΔH0 - 24ΔH1 + 3Δt + 2Δg + R0 (東南戦・和了レンチャン)
R:安定R ΔA0:基準に対する親の和了率の増分 ΔA1:基準に対する子の和了率の増分 ΔH0:基準に対する親の放銃率の増分 ΔH1:基準に対する子の放銃率の増分 Δt:基準に対する流局時テンパイ率の増分 Δg:基準に対する和了時ツモ率の増分 R0:基準R


考察

この麻雀の和了放銃方程式は、あくまでもこのシミュレータによって評価されない「他の技術」をなしにした評価である。
ゆえに、「他の技術」の変化を伴う打ち方の変化を正しく追うことはできない。
が、上記指標のみでの比較については、中心の成績から事実上最大限に離れた程度の値であってもおおむね線形性が保たれていることから(また式に対する追試結果のすばらしい結果からも)、実用することは有用であると言える。

重要なのは、シミュレータはこのような方程式に関する情報を一切持たず、単に和了率や放銃率に対応して「打った」結果を出力しているだけであるにもかかわらず、パラメータを変化させてやり直すと、この方程式の理論値がほとんど正確に結果を予測できるということにある。
他家のRや他家の和了率などの基準値は自由に取って良いから、何も「超ラン他家平均」に対してだけ用いる必要はなく、「過去の自分」「強い人のデータ」などから逆算を順次行うことができる。
「和了率20%の他家に対して和了率21%で他の要素を同じにして無限回打つと、順位はどれくらいになるか」という質問に対してカンでもある程度の精度の予測ができる人はなかなかいなかっただろう。これに放銃率などが加わるとますますそうであった。そういった質問に、非常に誤差の小さい解を与えるような方程式が発見できたことはめでたいことである。

他の部分の技術を変えずに「攻撃的に」してみたりする場合に、どの程度の放銃率の増加でどの程度和了率を上げれば強くなるのかといった評価に用いることは可能である。
また自分が平均よりもさほど良くない指標のうち、どれを上げれば成績の上昇につながりやすいかを見積もることもできる。
例えば超ランで、流局時テンパイ率を50%から60%に上昇させることはひどく困難であるが、それに対応する安定Rの上昇は30程度である。
その代わりに放銃率を1.2%増加させてしまっては、その「打ち方変更」は無意味である。
※講座に「流局時テンパイを取る技術などたいした技術ではない」と明言したのは以上のような理論で裏付けられる。
逆に安定して流局時テンパイ率を40%→50%に引き上げつつ、放銃率を0.5%増にとどめることができるならば、そのような技術変更は「実力向上」の可能性が高い。

ただし、注意点として以下を指摘しておきたい。
この擬似麻雀では、和了得点の分布(放銃得点の分布)を一定として計算している。
したがって、この麻雀方程式上でRが上がるからといって、とにかく和了を目指して1000点を上がりまくったりしてもダメ(理論どおりにRが上がらない)だということである。
(和了素点が平均順位に与える影響の大きさは別の実験ですでに明らかになっている)
どの要素が考慮されどの要素が考慮されていないか、ということについて考えることと、そして、短期的なデータ変動に踊らされないことが常に肝心である。

なお、典型的な「常勝組」の打ち方の例として、和了率が+2.0%、放銃率が-1.0%であるとして東風戦と東南戦の安定Rの違いを調べた。
第一安定R2041 第二安定R2088
これは「麻雀の成績比較の方法論」に載せた第一第二超ランのR互換表と見事に一致する。
第二は平均に対する技術の偏差が、R(平均順位)に非常に反映されやすいということも注目すべき点である(こちらは局数の問題による)。


東風戦と東南戦、第一と第二の違いについて

第一と第二の違いは、「クイタンがあるかどうか」などという非常に瑣末な問題ではなく、このようなパラメータの順位に与える影響の差によって語られねばならない。
明らかにもっとも影響を及ぼすのは「局数」の問題である。係数の絶対値がこれの影響で1.2倍以上になっている。局が増えるとより一層「実力」通りの結果が出やすくなることから、これは当然の結果と言えよう。

「テンパイレンチャンありか、なしか」という部分については、和了率(特に親の和了率)の影響が、第二は相対的に大きくなる。とはいえ、放銃率に対する和了率の重要度(係数比)は第一1.6、第二1.62であり、大差がつくというほどではない(感覚的にはほとんど「わからない」差に違いない)。クイタンがあるかどうかとか、赤ドラがあるかどうかとか、ラグがかかるかどうかと同様、ほとんど強さと関係のない「ルールの違い」の一つだと思われる。
第一は振ったらおしまいだから振らないことが大事とか、第二は長期だから和了率が大事だとか、あるいはどうのこうのとよく言われるが、この値を見る限り、全て「分析ゴッコ」以上のものではないことがわかる。どちらも和了率の増加が一番大事で、その大事さの度合いは放銃率の重要さに対する比で取れば第一と第二のルールの違いによらずほとんど同じなのである。
よく「ルールが違うから比較できない」などという言葉を聞くが、この擬似麻雀実験結果を見る限り、第二ルールだから和了重視、とか第一ルールだからうんぬん、と打ち方を変えることによっては、大した成果が得られないことがわかる。他家の打ち方から現実的な範疇で大きく離れたパラメータであっても、線形性が保たれている故である。
それよりも「全体の強さ」すなわち和了率をいかに高め放銃率をいかに下げるか、ということの方がずっと重要であるのは明らかであり、恐らくいかなるルールであってもこのことは変わらないように思われる(例えばチップのあるなしとか、トップ賞の取得率が問題であるにせよ、結局は和了率を上げること、せいぜいリーチ率を上げることなどによってそれを達成するしかないのである。「状況を見切った」おかげでうまく得するのは非常に稀なケースである)。

同様に、一般にある様々な狂言について考えることもできる。
例えば「第一より第二の方がルールが複雑な分技術要素が多い」というようなものがそれである。
麻雀の和了放銃方程式を見る限り、第二とは悪く言えば「和了率のゲーム」である。
第一は第二よりもテンパイ率やツモ率などについても考慮せねばならず、しかもRを上げる(技術の差を生かす)こと自体も極端に難しい。
私はここで別に「第一の方が難しいから、えらい」などと言うつもりなのではない。
「ルールが複雑であること→(必要な)技術要素が多い」という短絡が明らかに間違いであることを理論的に示したわけである。
極端に言えば、どんなに複雑怪奇なルールであっても「とりあえず、上がれば50000点もらえるルール」だったら和了率だけの単純ゲームになるわけだ。
各々の技術要素が、どの程度結果に影響を与えるかを知ることが大切なのである。
トップクラスになるために必要な技術要素がそのうちどの程度あるか、ということが「強くなるための、ゲームの複雑さ」に他ならないのだ。
方程式を見る限り、麻雀における基本的な「技術」は和了率・放銃率に集約され、少々のルールの違いに依存しないことが予測できる。
例えば第一で安定R1850の人間は、「ルールの違い」などとわめく以前の問題として、第一ルールにおいて安定R2050の私よりもただただ和了率換算で5%低いわけである。
そしてここで示されたことだが「総レンチャン・東風戦」→「上がりレンチャン・東南戦」に変化したくらいのルールの違いでは、この差は全く埋まらないのだ(もちろんしぐさ読みのみで和了率を5%上げられる猛者は別だが)。むしろ、そのルール変更によって差はより大きく(安定R250)なる。
少しでも麻雀を統計的な観点から見る者は「他の要素が同じで、和了率だけが単に5%低い」ということがいかに技術的劣等を意味するか、この差を埋めるために必要な技術が数多くあるかを理解するであろう。


麻雀に関する語りはどれほど間違いやすいか

さらに一般化すれば、「第一では~~すべきだが第二では~~」とかそういった直感は多くの場合心理的な偏りの錯誤を含むため、非常にあてにならないということがいえる。
(偏りの錯誤:人間は、例えばコインを投げると表と裏が実際以上に交互に出るという直観を持っていることが明らかになっている)
連続的に一発を上がられると「東風は一発が多い」と言い始める原因の一つはそこにある。実戦麻雀を充分打っている人なら、実戦でもそのようなことは同じ程度に起こることを知っているものだが。
異なるものを実際以上に異なるように感じる錯誤の影響によって、「和了率放銃率の最適点バランス」においても、やれ第一はどうだ、やれ第二は、実戦は、とやってしまうのである。

ここで、掲示板で次のような問題を出した時の回答者の成績を見てみたい。


第一超ランにおいて、1局あたり次のようなデータを持つプレイヤーがいます。
A 和了率19% 放銃率12.5%
B 和了率21% 放銃率14%
C 和了率22% 放銃率15%
D 和了率23% 放銃率15.5%
E 和了率18% 放銃率10%
F 和了率18.5% 放銃率10.5%
上がった時の和了点や振った時の放銃点は全員同じ分布だと考えます。
和了率・放銃率関連以外の全てのデータ(うまさ)はおおむね等しいと仮定します。
他に必要な仮定は適宜導入してください。

上記6人を、強い(ここでは、平均順位がよい)と思う順に並べてみてください。
また、第二超ランではどうでしょうか。

これに理論的な解を与えることは劇的に困難ですので、経験や直感でよろしくお願いします。


回答者は17名、平均点が6.9点(第一)、7.7点(第二)であった(18点満点)。
なお、「適当に解答を並べてみる」場合に期待できる得点が9点。
この中でもっとも強いと評価されるべきDと、最も弱いと評価されるべきA(安定R差は第一で80、第二で100)の順位付けにおいてさえ、D>Aと書けた人が全体の7/17であった。
以上からまさに、「偶然以上に当たっていない」という結果になったわけだ(偶然以上に外れているのは文字通り偶然であるか、偏りの錯誤によるものだろう 笑)。

もっとも目立ったのは「第一は放銃率を低くする必要がある」という見解と、「第二は和了率が重要」との見解であった(もちろん中には、「第一は和了できなければ勝てない」という見解もあったが)。
これらはほぼ当然の認識であるかのように前提とされていたが(そして私さえもこのシミュレーションを行うまである程度それと似たような直感的信念を持っていたが)、今回のシミュレーション結果はその前提の妥当性を完全に覆している。
このテストを行った掲示板は全体的に知的水準が高くモラルも良い場所であったことと、私が問題に書いたことから、「状況による」「相手による」「ルールによる」などの珍解答はなかったが、一般的な平均人の集まる場所で同じ問題を出せばそうした弁明が山ほど寄せられることは想像に難くない。
とりわけ「ルールが違うから比較できない」なる言葉は非常に多くの場面で用いられる凡言である。
しかし例えば結論の「ルール」への依存は、「東風戦総レンチャンか、東南戦和了レンチャンか」というほど大きな差によっても、全くなかったのである。
「第一も第二も、放銃率に対する和了率の重要度はほとんど同じである」「少々のルールの違いによらない」ということが唯一正しい見解であった。
この問題に「ルールによる」と答えることは、むしろ間違いなのである。
同じく、方程式の線形性から考えれば、「相手による」も多くの場合間違いだと言えるだろう。
(掲示板で真摯にレスをしてくれた方々、どうもありがとう。間違ったレスであっても気にしなくていい。私もデータを取るまではこの結果は予測できなかったのだから)
直感的になんとなくそうであろうと思うこと(第一より第二のほうが和了が重要、など)も、データを取ってみれば誤差レベルのどうでもよい指標であったり、むしろ逆であったりすることは非常に多いのである(もちろんこのことは私自身への自戒の意味もある)。この問題で直感が外れたことが重要なのではなく、このような構造全体を疑うことが重要なのだ。

その構造とは、麻雀界に「正解」が少ないことをいいことに、「○×による」と言って様々の重要な判断から逃げつつ、偶然以上に当たらないマイ麻雀形式を語るあり方のことである。
「なんとなくそう思うから」第二は第一より和了が大事だと思ってみたり、「そうした直感的な差が色々考えられるから」第一と第二のルールの違いで比較できないと言ってみたりすることである。
(「状況を読むことができる」人間が、山牌読みにおいて単純な数え上げコンピュータに完敗した実験結果も参照されたい)
この構造は「流れ」の構造と同じである
流れの構造とは宗教の構造であるが、もっと言えば「それを信じることによって、自分が強くなった気にさせられる宗教」の構造である。
なんとなく周りもそう言っているらしい判断が、あるかどうかもほとんどわからない何かが、ある日突然、何の努力も理論も試行錯誤もなしに「自分のものになる」瞬間である(「第一と第二の違いについて私は知っている」「牌効率だけの人にはわからない流れについて私は知っている」「私は他家のステハイやしぐさの情報を使いこなすことができる」etc.)。
そのようなあり方は、例えば「実戦と東風とは全く違う、実戦では読みが大事」など自分たちの領域を精神的に守るためだけに使われる。データを取らないことによって、彼の弱さもばれずにすむ。結果が出ない世界というのはすばらしく甘い(ちなみに私は麻雀を実戦でも数多く打ってきたが、「読みが大事」「東風とツモが違う」などと実感したことは一度としてない。そのかわり、それらのオカルトにすがることによってのみ救われる連中、数値やデータが出ない部分でのみ語れる連中は100人も見てきた)。
麻雀人口の1/4くらいが「流れ」をようやく相対化したというのに、その1/4のうちほとんどの人によって、同レベルのデマが「当然の前提として」語られている。
宗教の鞍替えによっては技術は何ら進歩しない。「流れ」が良くないのではない、その愚昧さが良くないのだ。
麻雀の分析は、あまりにも直感的なものが主流であり、もはや「教義の焼き直し」状態に陥っている。
論理的に麻雀を研究できる同志にのみ、麻雀界の今後を託したいものである。


課題

和了時得点分布や放銃時得点分布を厳密にすると、より良い結果が得られることが期待できる。
ただしデータが煩雑になると実測からしか得られず、それでは無意味なので、上がり役数を増やす特殊パラメータ(リーチ率に依存するなど)を用意した方がよさそうである。
リーチ棒の行き来や、リーチ時の和了率・放銃率などについても詳細にするとより良い結果を求められそうなので検討する。
「その他の技術」のシミュレータへの導入の検討。
より細かく、最終得点の差分による順位分布だけでなく、東2曲の得点差分による順位分布など細かいデータを取る。
トップ時は和了率を下げて放銃率も下げる戦略がどのあたりで有効になるかを検討し、さらに発展的にゲーム理論に昇華させる。